・・・彼等にとって彼女は、無二の友というのではない。けれども、此小事件から足踏み出来ないとなると何だか淋しい気がした。如何云ってよいか――つまり、せめて金でも沢山あったらまだしもだが、あれっぽっちで妙な性格の暗さを曝露して仕舞ったこということが、・・・ 宮本百合子 「斯ういう気持」
・・・嘗て わたしの歓に於て無二であった人今はこの寂寥を生む無二の人貴方は何処の雲間に見なれたプロファイルを浮べて居ますか。 三十一日うたわず 云わぬ我心を西北の風よかなたの胸に 吹きおくれ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・ 王様は、絶対無二、尊厳であり偉大であり完全でありたかったのに、不仕合わせな耳が彼を苦しめる種となったので、悪口、批評の根絶やしをしたくて、皆の耳を自分と同じようにさせて、ホッと安心しました。ほんとにこれなら、先ず大丈夫と思っていたので・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・日本の情勢の下にあって、運動をますます強め、ますます広汎ならしめる唯一にして無二の原動力なのである。 かかる意味において、われらは同志小林の闘争の生涯がボルシェビキ的強情さによって貫徹され、高き規範を示したことに無限の敬意を捧げるのであ・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・ そこに於てこそ、自分が苦しみ、悦びしつつ経て行く生活過程に絶対無二な意義を感じ得るとともに、近くは親同胞、配偶者、あらゆる友、生きている者全部の営みに、尊敬と理解、同感を持ち得るのではないでしょうか。 私は暖い篝火の囲りに円座を組・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・この事実を知っていたものは貞淑無二な彼の前皇后ジョセフィヌただ一人であった。 彼の肉体に植物の繁茂し始めた歴史の最初は、彼の雄図を確証した伊太利征伐のロジの戦の時である。彼の眼前で彼の率いた一兵卒が、弾丸に撃ち抜かれて顛倒した。彼はその・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫