・・・「何という無法者だろう。恩も義理も知らぬ仕打ではないか!」 老父は耕吉の弁解に耳を仮そうとはしなかった。そして老父はその翌朝早く帰って行った。耕吉もこれに励まされて、そのまた翌日、子のない弟夫婦が手許に置きたがった耕太郎を伴れて、郷・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・伐墓という語は支那には古い言葉で、昔から無法者が貴人などの墓を掘った。今存している三略は張良の墓を掘って彼が黄石公から頂戴したものをアップしたという伝説だが、三略はそうして世に出たものではない。全く偽物だ。しかし古い立派な人の墓を掘ることは・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・雨はあがり、雲は矢のように疾駆し、ところどころ雲の切れま、洗われて薄い水いろの蒼空が顔を見せて、風は未だにかなり勁く、無法者、街々を走ってあるいていたが、私も負けずに風にさからってどんどん大股であるいてやった。恥ずかしいほどの少年になってし・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・これからT君と妹との結婚の事で、万一むずかしい場合が惹起したところで、私は世間体などに構わぬ無法者だ、必ず二人の最後の力になってやれると思った。 増上寺山門の一景を得て、私は自分の作品の構想も、いまや十分に弓を、満月の如くきりりと引きし・・・ 太宰治 「東京八景」
出典:青空文庫