・・・また一方はその性情が全く非古典的である上に、無神経と思われるまでも心の荒んだ売女の姿だ。この二つが、まわり燈籠のように僕の心の目にかわるがわる映って来るのである。 一方は、燃ゆるがごとき新情想を多能多才の器に包み、一生の寂しみをうち籠め・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・おまえさんは無神経も同然だからいいが、私は困る。」と、顔をしかめて不賛成をとなえだした。 電信柱は、背を二重にして腰をかがめていたが、「そんなら、いいことが思いあたった。おまえさんは身体が小さいから、どうだね、町の屋根を歩いたら、私・・・ 小川未明 「電信柱と妙な男」
・・・そして女というものの、そんなことにかけての、無神経さや残酷さを、今更のように憎み出した。しかしそれが外国で流行っているということについては、自分もなにかそんなことを、婦人雑誌か新聞かで読んでいたような気がした。―― 猫の手の化粧道具! ・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・支那人はボール箱の荷物をおろすと、脂ぎった手で無神経にその毛布をめくり上げた。相変らず、おかしげににやにや独りで笑っていた。「イーイーイイイ!」という掛声とともに、別の橇が勢いよく駈けこんできた。手綱が引かれて馬が止ると同時に防寒帽子の・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・豚は一見無神経で、すぐにも池か溝かに落ち込みそうだった。しかし、夢中に馳せまわっていながら、崖端に近づくと、一歩か二歩のところで、安全な方へ引っかえした。 三人は、思わず驚きの眼を見はって、野の豚群を眺め入った。 ところが、暫らくす・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・ 朝五時から、十二時まで、四人の親子は、無神経な動物のように野良で働きつゞけた。働くということ以外には、何も考えなかった。精米所の汽笛で、やっと、人間にかえったような気がした。昼飯を食いにかえった。昼から、また晩の七時頃まで働くのだ。・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・この家の人、全部に忿懣を感じた。無神経だと思った。「たべなさいよ。」私は、しつこく、こだわった。「客の前でたべるのが恥ずかしいのでしたら、僕は帰ってもいいのです。あとで皆で、たべて下さい。もったいないよ。」「いただきます。」女は、私・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・本当に、此の親しい美しい日本の土を、けだものみたいに無神経なアメリカの兵隊どもが、のそのそ歩き廻るなど、考えただけでも、たまらない、此の神聖な土を、一歩でも踏んだら、お前たちの足が腐るでしょう。お前たちには、その資格が無いのです。日本の綺麗・・・ 太宰治 「十二月八日」
・・・それから、この縁側に腰を掛けて、眼をショボショボさせている写真、これも甲府に住んでいた頃の写真ですが、颯爽としたところも無ければ、癇癖らしい様子もなく、かぼちゃのように無神経ですね。三日も洗面しないような顔ですね。醜悪な感じさえあります。で・・・ 太宰治 「小さいアルバム」
・・・まるで無神経な人だと思った。 あの人にとぼけるという印象をあたえたのは、それは、私のアンニュイかも知れないが、しかし、その人のはりきり方には私のほうも、辟易せざるを得ないのである。 はりきって、ものをいうということは無神経の証拠であ・・・ 太宰治 「如是我聞」
出典:青空文庫