・・・まるでもう無神経なのだから。でも、お母さんは昔は綺麗だったなあ。あたし、東京で十年ちかく暮して、いろんな女優やら御令嬢やらを見たけれども、うちのお母さんほど綺麗なひとを見た事が無い。あたしは昔、お母さんと二人でお風呂へはいる時、まあどんなに・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・それだのに我国の文教の枢府ではこの事実に無神経である。 映画などは不良少年少女の見るものであるといったような時代放れのした気持が、いわゆる教育家や、特に真面目な中堅人士の間にいくらかでも残っている間は教育映画の時代は廻って来ないであろう・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・人間流に考えるとこの三匹はのんきで無神経で、つまり環境への順応が遅鈍であるのか、それともつむじ曲がりのあまのじゃくであるのかとも思われる。しかしまた考えてみると、とんぼの方向を支配する環境的因子はいろいろあるであろうから、他の多数のとんぼが・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・と云った。無神経はよろこばしくない。〔一九二三年七月〕 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・何の抑揚もなく、丁度生暖い葛湯を飲む様に只妙にネバネバする声と言葉で、三度も四度も繰かえされてはどんな辛棒の良いものでもその人が無神経でない限り腹を立てるに違いない。 斯うなると、菊太と祖母は只根くらべである。つまる処は根の強い菊太がい・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫