・・・例えば塵埃に光波が当った時に、光電効果のような作用電子が放散され、それが高層空気の電離を起す事、それが無線電信の伝播に重大な関係を持ち得る事、あるいは塵が空中の渦動によって運搬されるメカニズムやその他色々の問題が残っている。限られた紙数では・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ナウエンの無線電信塔の鉄骨構造の下端がガラスのボール・ソケット・ジョイントになっているのを見たときにも胆を冷やしたことであった。しかし日本では濃尾震災の刺戟によって設立された震災予防調査会における諸学者の熱心な研究によって、日本に相当した耐・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 汽車や飛行機や電話や無線電信はいわば氷の中へ熱鉄を飛び込ませ、水の中へ濃硫酸を酌み込むような役目をつとめるものである。 交通機関の拡がるのは、風の弱い日の火事の拡がるように全面的ではなくて、不規則な線に沿うて章魚の足のごとく菌糸の・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・ 航空気象観測所と無線電信局とがまだ霜枯れの山上に相対立して航空時代の関守の役をつとめている。この辺の山の肌には伊豆地震の名残らしい地割れの痕がところどころにありありと見える。これを見ていると当時の地盤の揺れ方がおおよそどんなものであっ・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・熱の輻射も無線電信の電波も一つの連続系の部分になってしまって光という言葉の無意味なために今では輻射線という言葉に蹴落とされてしまったのである。 今日のように非人間的に徹底したように見える物理学でもまだ徹底しない分子を捜せばいくらでも残っ・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・当時は世界第一であったナウエンの無線電信発信所を見物したのもこの見学団の一員としてであった。テレフンケン・システムの大きな蛇のようなスパークがキュンキュンと音を立ててひらめいては消えるのを見た。同じ団体にはいってヘッベルの劇場の楽屋見学をし・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・初に見た時、やや遠く雲をついて高地の空に聳えていた無線電信の鉄柱が、わたくしの歩みを進めるにつれて次第に近く望まれるようになった。玩具のように小さく見える列車が突然駐って、また走り出すのと、そのあたりの人家の殊に込み合っている様子とで、それ・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
出典:青空文庫