・・・琴に限って愛読して筆写の労をさえ惜しまず、『八犬伝』の如き浩澣のものを、さして買書家でもないのに長期にわたって出版の都度々々購読するを忘れなかったというは、当時馬琴が戯作を呪う間にさえ愛読というよりは熟読されて『八犬伝』が論孟学庸や『史記』・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・なお、小林秀雄氏の文芸評論はランボオ論以来ひそかに熟読した。 西鶴を本当に読んだのは「夫婦善哉」を単行本にしてからである。私のスタイルが西鶴に似ている旨、その単行本を読んだある人に注意されて、かつて「雨」の形式で「一代男」をひそかに考え・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・桂は一度西国立志編の美味を知って以後は、何度この書を読んだかしれない、ほとんど暗誦するほど熟読したらしい、そして今日といえどもつねにこれを座右に置いている。 げに桂正作は活きた西国立志編といってよかろう、桂自身でもそういっている。「・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・しかしすぐれた倫理学を熟読するならば、いかに著者の人間が誠実に、熱烈に、条理をつくして、その全容を表現しているかを見出して、敬慕の念を抱かずにはいられないであろう。それは文芸の傑作に触れた感動にも劣るものではない。そしてその感染性とわれわれ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・かような指導書を見出したときには、これをくりかえし、幾度となく熟読し、玩味し、その解答を検討すべきである。手垢に汚れ、ページがほどけるほど首引きするのこそ指導書である。 広く読書することも必要であるが、指導書を精読することは一層大切であ・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ もう、この頃では、あのトカトントンが、いよいよ頻繁に聞え、新聞をひろげて、新憲法を一条一条熟読しようとすると、トカトントン、局の人事に就いて伯父から相談を掛けられ、名案がふっと胸に浮んでも、トカトントン、あなたの小説を読もうとしても、・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・その書物を親元が購い熟読したなら、どういうことになるであろう。なにやら罪ふかい結果が予想できるのであった。三郎はこの書物の出版をやめなければならなかった。書生たちの必死の反対があったからでもあった。それでも三郎は著述の決意だけはまげなかった・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・たとえばほんとうに有益なまとまった書物でも熟読しようというような熱心と気力を失わせるような弊がありはしまいか。 このような考えから、私はいっその事日刊新聞というものを全廃したらよくはないかという事につい考え及んだわけである。今のところそ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・哲学に入るものに、彼の『省察録』の熟読を勧めたい。しかし私は彼は遂にその目的と方法に徹底せなかったと考えるものである。彼はアリストテレス的論理を脱しなかった。実在を何処までも主語的なるもの、基本的なるものに求めた。そこから彼はいわゆる独断的・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・を読み、選評速記を熟読して、深くその感に打たれた。 三「運・不運」は、この作だけについて決定的なことを云われたら作者も困る作品だろうと思った。『文芸』の今回の選には満場一致のような作品がなくて、そのためかえ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫