・・・デスデモーナは、オセロを熱愛しながら、一方で畏怖している。オセロの愛のはげしさをうけみにおそれて、これをなくさないように、と云われたその言葉の力に圧せられ、麻痺させられてしまっている。デスデモーナのこの分別のない過度の従順さ、清浄さ、無邪気・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・を眺め、横光によってたどられた自由建設の道行きを調べると、私どもは、いわゆる高邁な文学的業績を熱愛する作者が、実は案外、単純で、楽な道具だてだけをこの作品のために拾ってきている事実を見出すのである。 総体がリアリズムによって書かれている・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・真面目な科学者は、彼の片目を盲にした爆発物を、なお残りの隻眼で分析する勇気と、熱愛と、献身とを持つ」 彼女は確かに失望もし、情けない恥かしさに心を満たされもした。 けれども、極度な歓喜に燃え熾った感情が、この失策によって鎮められ、し・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・その三月の時、日頃彼を熱愛していた母は、最愛の息子が自殺して苦悶から逃げようとした態度を激励的に叱責するよりも先に、その純情と苦悶とに自分がうたれ、感傷し、感情の上で弟にまきこまれた。五ヵ月後、彼が遂に死んだ時も、母はこの濁世に生きるには余・・・ 宮本百合子 「母」
出典:青空文庫