・・・ 何故なら、ソヴェト同盟で諷刺的に様式化されたブルジョアジーは、いつでも燕尾服にシルク・ハットで、太い金鎖りをデブ腹の上にたらし、小指にダイアモンドをキラつかして、葉巻をふかしている。 しかし実際に、どんな場合でも、ブルジョアジーは・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・爺さんの給仕が、白手袋をはめて、燕尾服のしっぽをふりまわしながら、その間を働いている。汗は爺さんの額に光っている。ピアノの音。三鞭酒のキルクのはぜる音。ピリニャークが自分たちに訊いた。「何をたべましょうか?」 はじめて自分は「作家の家」・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・ と燕尾服のズボンに片手を突こみ片手には手袋を振って声援しているもう一人の学生。更に一人は瓦斯街燈にからみついて他愛がない。遙か彼方から、重い体で学生監がかけつつある。「EXCHANGE IS NO ROBBERY。」 ・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・わたくしはあの写真の男に燕尾服がどんなに似合うだろうと想像すると、居ても立っても居られなかったのです。 女。ええ。まだ覚えていますの。 男。それからわたくしはあなたをちょっとの間も手離すまいとしたのですね。あなたが誰と知合になられた・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫