・・・ 八 黒焼き 学生時代に東京へ出て来て物珍しい気持ちで町を歩いているうちに偶然出くわして特別な興味を感じたものの一つは眼鏡橋すなわち今の万世橋から上野のほうへ向かって行く途中の左側に二軒、辻を隔てて相対している黒・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・千人針が縁となってここに二つのかなり遠くかけはなれた若い女の世界が接近して、互いにいくらか物珍しい興味をもって交渉しているのである。若旦那も時々助太刀に出かける。それが大変に丁寧な言葉を遣っているのに対して女学生の言葉が思いの外にぞんざいで・・・ 寺田寅彦 「千人針」
・・・そこへ入るだけが、もう気分がどきどきする物珍しいことだ。庭に生えている木賊の恰好や色と云い、少しこわいような、秘密なような感情を起させる。積んである座布団に背を靠せて坐り、魔法の占いでもするように、私は例の百銭をとり出す。それを一つずつ、薄・・・ 宮本百合子 「百銭」
出典:青空文庫