・・・ その頃の書生は今の青年がオペラやキネマへ入浸ると同様に盛んに寄席へ通ったもので、寄席芸人の物真似は書生の課外レスンの一つであった。二葉亭もまた無二の寄席党で、語学校の寄宿舎にいた頃は神保町の川竹の常連であった。新内の若辰が大の贔負で、・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・理解の花、可也。物真似の花、可也。放火の花、可也。われら常におのれの発したる一語一語に不抜の責任を持つ。」 あわれ、この花園の妖しさよ。 この花園の奇しき美の秘訣を問わば、かの花作りにして花なるひとり、一陣の秋風を呼びて応えん。「私・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 徒らな物真似や模倣を愧じる感覚も、文化の感覚として私たちのうちに美しく磨かなければならないだろうと思う。嘘偽や偽善を身につけまいとする潔癖も、文化の本質にある美しい感覚の宝である。常に事物の本質をわかって行きたいと思う心持こそ、文化の・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
出典:青空文庫