・・・かかる人はいかなる時代にも人間全体によっていたわられねばならぬ特種の人である。しかし第二の種類に属する芸術家である以上は、私のごとく考えるのは不当ではなく、傲慢なことでもなく、謙遜なことでもなく、爾かあるべきことだと私は信じている。広津氏は・・・ 有島武郎 「広津氏に答う」
・・・って明にされたるが如く、彼等の、社会的という言葉の意味は、個性を没却し、特色を失うということであってはならない、全国一様の教科書は、単に学術的知識を教うるに役立つけれど、その知識が、果して、各児童等の特種的なる経験と一致するや否やを考究する・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・無産派作家は、どうして、こうした数奇な生活が、特種の人達にのみ送られるかを更に深く考えなければならない。そして、筋に捕われてはならない。妥協してはならない。飽迄も良心のまゝに疑わなければならない。今、私達の文壇の弊は、この最も正直に、疑わな・・・ 小川未明 「何を作品に求むべきか」
・・・づいてくると、私はいよいよ秋山さんの安否が気になってきて、はたして秋山さんは来るだろうかと、田所さんたちに会うたび言い言いしていたところ、ちょうど、彼岸の入りの十八日の朝刊でしたか、人生紙芝居の記事を特種にしてきた朝日新聞が「出世双六、五年・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・「君は何か芸術家というものを、何か特種な、経済なんてものの支配を超越した特別な世界のもののように考えているのかもしれないが、みたまえ! そんな愚かな考えの者は、覿面に世の中から手ひどいしっぺ返しを喰うに極っているから」「いや僕もけっ・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・との一念が執念くも細川の心に盤居まっていて彼はどうしてもこれを否むことが出来ない、然し梅子が平常何人に向ても平等に優しく何人に向ても特種の情態を示したことのないだけ、細川は十分この一念を信ずることが出来ぬ。梅子が泣いて見あげた眼の訴うるが如・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 俺れらを特種にするよりゃ、さきに、内地の事情を知らすがいゝ。」 彼等は、記者が一枚の写真をとって部屋を出て行くと、口々にほざいた。「俺ら、キキンで親爺やおふくろがくたばってやしねえか、それが気にかゝってならねえや!」三 前・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・それからは、叔父さんが、私に、文学というものは特種の才能が無ければ駄目なものだと、苦笑しながら忠告めいた事をおっしゃるようになりました。かえって、いまは父のほうが、好きならやってみてもいいさ、等と気軽に笑って言っているのです。母は時々、金沢・・・ 太宰治 「千代女」
・・・が少しも錯覚のないものであったら、ヒトラーもレーニンもただの人間であり、A一A事件もB一B事件も起こらず、三原山もにぎわわず、婦人雑誌は特種を失い、学問の自由などという言葉も雲消霧散するのではないかという気がする。しかしそうなってははなはだ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 発明発見、その他科学者の業績に関する記事の特種は、たった一日経過しただけで、新聞記事としての価値を喪失するという事実がある。この事実もまたジャーナリズムのその日その日主義を証拠立てる資料となるであろう。学者の仕事は決して一日に成るもの・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
出典:青空文庫