・・・デュガールは、ジャックをとりかこむそれぞれの時期における社会的環境の特質とジャックの人間性の覚醒――自意識のめざめの段階とを対決させつつ、ジャックとその社会の動きを描いている。ジャックという一人の人間が、一定の社会史の期間をとおして、その矛・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 鴎外は芸術家として生れ合わせた明治という時代の特質を、漱石とは異った組み合わせで身につけていた人であったと思う。ロマンティックな要素、そしてその反面に根をはっている封建風なもの、この両者はそれぞれ独自なニュアンスをなして、云わばこの卓・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・民族のさまざまな特質やその特質を更に個性のニュアンスで音楽にうちこめている作品の再現としての演奏が、純粋に音の領域から入ってその精髄にふれてゆくことも、いろいろと考えさせて感興ふかかった。 音楽にも民族の性格が顕著なのは自然だが、その自・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ コフマンのもう一つの特質として、この本の中ででも、人間の精神的な物質的な努力が文化を進めて来た事実をしっかりと理解してそれを語っている点である。単純な楽天で、人間万歳を唱えているのではなくて、刻々の個人と社会との努力の価値を大切なもの・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
岩波文庫『魯迅選集』とパアル・バックの『分裂せる家』魯迅という作家が支那の一九二四・五年からの八九年間に亙る急激な社会的推移の間で、この作家の偉大な特質である人間的正義感と民族解放の慾求とをどう成長させたかと云う点で、こ・・・ 宮本百合子 「カレント・ブックス」
・・・最早やそのときに於ては、文学はその科学のごとき有力なる特質を紛失する。しかしながら、もしもコンミニストが、文学を認めたとしたならば、文学の有つ此の科学のごとき冷静な特質をも認めねばならぬであろう。 もしもコンミニストが、此の文学の持・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・彼の特質がこの刺激性にないとは言い切れまい。 彼の現在は未知数である。彼が私の注意を引くのは価値が高いゆえでなくて価値がいまだ現われないからである。彼は確実性の代わりに不安定をもって、力の代わりに予感をもって、形の代わりに影をもって、思・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・日本画のこのような特質に注意を集めて、それを「浪漫的」と呼んでも、必ずしも不都合はないと思う。 そこでこの二つの態度の比較である。態度そのものの問題としては、どちらかが間違っているとは言い切れない。ミケランジェロは最後の審判において彼の・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・そしてすべて世界的になっている永遠の偉人が、おのおのその民族の特質を最も好く活かしている事実に、私は一種の驚異の情をもって思い至った。最も特殊なものが真に普遍的になる。そうでない世界人は抽象である。混合人は腐敗である。――しかも私は真に日本・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・――我々は現戦争のあらゆる著しい特質を見まわしたあとで、結局、最近の自然力支配は人間の罪悪と不幸とを一層深めた、という結論に到達する。すなわち解放せられた自然的欲望はその自由の悪用のゆえに貪婪の極をつくしてついに自分を地獄に投じた。人智の誇・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫