・・・こういう手法もこの作品の特長だと思います。深見進介の眼の虹彩のせばまるところに光りがあり、情景があり、その虹彩の拡がるところに闇がある、そんなふうに執拗に深見の体にくっついてはなれず、その感情を通じてだけ形象の世界を実在させている。その意味・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ソヴェトが今日に至ったまでの歴史、生産に対する知識の普及、衛生知識の普及、今日五ヵ年計画がどう行われているかというニュース、そういうものを芸術的にどう表現していくかという点に特長がある。同時に芸術的に技術的に非常に進んでいる。日本のように単・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・文学を愛す人の心は、現実をもより深く感じ、考え、理解しようとする本来の特長をもっているのだから、その意味で、新しい民主文学のつくりてたちは、職場生活をこめてどんな場面にあっても、階級的な文学をつくろうとするものとして統一された精神の流れを分・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ これぞと云った特長もないのに何故こんなにもう七年ほどもつき合って居るんだろうなどと云う事が妙に思われた。 一年も半年も会わないで手紙さえやりとりしなかった時はたびたびでもその次会った時には昨日会った人達の様に何にもこだわりもなく打・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・音楽、文学、映画などが、地球の各人民の生活からそれぞれの特長をもって発生しつつ、全人類の所有に帰すると同じように。 したがって、現代説話のイカルスは、太陽熱にとかされる古風な膠などで自分の背中に翼をとりつけてはいない。イカルスは一人では・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・それから法隆寺模様の特長と桃山時代の美術の特長とを文様集成を見て知った。 宮本百合子 「日記」
・・・これが先ず感覚の或る一つの特長だと煽動してもさして人々を誘惑するに適当した詭弁的独断のみとは云えなかろう。もしこれを疑うものがあれば、現下の文壇を一例とするのが最も便利な方法である。自分は昨年の十月に月評を引き受けてやってみた。すると、或る・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・これは恐らく二千年の歴史を持った東洋画の伝統がしからしめるところであって、この特長を活用するところに日本画家の誇りも存するのであろう。洋画家の理想画や歴史画が幻想の不足のために滑稽に堕している間に、日本画家がこの方面である程度の成功を見せて・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・彼女は機械的に何の特長もない演技をもって芝居を初める。やがて時が迫って来て彼女の特有な心持ちにはいると、突如全身の情熱を一瞬に集めて恐ろしい破裂となり、熱し輝き煙りつつあるラヴァのごとくに観客の官能を焼きつくす。その感動の烈しさは劇場あって・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・この造り出し方において私は先生の芸術の一特長を注意したいと思う。 先生は眼の作家であるよりも心の作家であった。画家であるよりも心理家であった。見る人であるよりも考える人であった。小説家であるよりもむしろ哲人に近かった。そのためか、先生の・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫