・・・外へも出られないというのが本当ならどうして小説が書けている、と特高の論法になるかもしれない。 わたしにどんな一つの特権があるのではない。わたしはわたしとして基本的な人間の権利を明らかにしているだけである。むごさという感覚をとりおとした人・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・いわゆる人民が上官から憲兵から特高からその肉体の上にくらったビンタとちがったビンタが、文学者のために用意されていたでしょうか。どんなちがった監獄に作家が入れられたというのでしょう。 谷川徹三の「文化平衡論」という主張が戦争拡大する前後の・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・警視庁の特高課長であった毛利基が主事をしていた。毛利基は宮本の関係した党内スパイ摘発事件のとき、スパイを潜入させその活動を指導するための主役の一人であった。はじめて保護観察所によばれたとき、この毛利が鉈豆煙管をさげて出てきて、「どうだね・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・安倍源基は、警視庁の特高部長でした。それから人民抑圧の手柄によって、警視総監となり、内務大臣となり、さいごに企画院にゆきました。彼の出世の一段階ごとに治安維持法の血がこくしたたっています。小林多喜二を拷問で殺したのも、安倍源基とその部下の仕・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・それは、ひろ子をつれてゆくために、風呂場の戸をこじあけて侵入した特高の男であった。 風知草の鉢は、ひろ子が友人にゆずって出たその家の物干で、すっかり乾からび、やがて棄てられたのだが、ひろ子の記憶に刻みつけられているもう一つの風知草があっ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・なぜかといえば、たとえば安倍源基という人は、日本の治安維持法による特高警察というものがつくられ、言論や出版の自由をすべて人民から奪って、十何年かの間戦争を遂行して参りましたその治安維持法改悪のたびに立身してきた人間です。安倍源基という人はは・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・私がよそから何心なく家へ帰って来たら、警視庁特高の山口がはり込んでいて、任意出頭の形式で所轄署へ来いということです。所轄署駒込署へ行くと、中川というこれも文化団体弾圧専門の特高が待ちかまえていて、日本プロレタリア文化連盟のことで私を調べなけ・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・歩道には、市内各署の特高のスパイが右往左往して日頃目星をつけている人物を監視したり今にもひっぱりそうな示威をしたりしている。おとなしく立っている女ばかり数人の私たちでさえ、いやな気がしてじっと一つところにはいられなかったほど、胡散くさい背広・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
出典:青空文庫