・・・彼は到底狂信者のように獰猛に戦うことは出来ない。 宿命 宿命は後悔の子かも知れない。――或は後悔は宿命の子かも知れない。 彼の幸福 彼の幸福は彼自身の教養のないことに存している。同時に又彼の不幸も、―・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・しかし、真の殉教者は、そのいずれに於ても、狂信的なるものである。即ち新社会を建設する上に於て、貴い犠牲者でもあります。 しかし、こゝに、政治運動が流行すれば、皆なその方に向って行き、他を顧みないという風があります。また新しい思想が入って・・・ 小川未明 「文化線の低下」
・・・ 云々と、普通の女の挨拶を述べるばかりで、すこしも狂信者らしい影が無い。「うむ、これで母と子の対面もすんだ。それでは、いよいよインフレーションの救助に乗り出す事にしましょう。まず、新鮮な水を飲まなければいけない。お母さん、薬缶を貸し・・・ 太宰治 「女神」
・・・一人二人の校長の狂信めいた昨今のものの見かたそのものより、それは異常であるという事を当然忠告すべきであるのに、何となし淡白に云い出しかねさせる空気が社会にあることを重大に戒心しなくてはならないと思う。 もしそんな度はずれな思いつきが実現・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・農村・工場・学校・諸経営から前線に赴いて民主主義を防衛して闘った勇ましい一人一人の人生が、ナチ軍の狂信的な一個のオットウだの、あわれに強制された一人のカールだのの過去三十年の運命とは、一つも似たところないものであった。ソヴェト同盟の今日から・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・p.159 ドストイェフスキーは運命に刻印された両極性という点で、まさにこの点でのみ理解される、○彼は自らの対立の狂信者である。○彼の二重性格者たる彼の生存の根本意志を象徴的に示すものとしての賭博ルーレットの赤と黒○「い・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・一億一心、八紘一宇、聖戦、大東亜共栄圏というような狂信的用語が至るところに溢れた。文学はこれらの言葉の下に埋没した。この緊迫した状態のもとで宮本の公判がはじまった。当時宮本は公判廷に出ても席に耐えないでベンチの上に横になる程疲労していた・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・パストゥールとリスターによって病原菌が発見され、世界人類の病と死とは飛躍的に克服されるようになったが、彼女は「病原菌狂信」を嘲笑し「伝染」というものはないとした。しかし、新鮮な空気の利きめは彼女が自分の目で見、その手で開けた窓々からスクータ・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・「文化の再生には、必ず憑かれたもの、狂信者、専制者を必要とする」と断言されるに至って、人々は一陣の無気味な風を肌に感ぜざるを得ないのである。 何と解するかの問題 同じ「文芸批評の行方」という『中央公論』の論文の・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・で中河与一氏、保田与重郎氏などによってロマンティック狂信的に讚えられる万葉精神と、私たち一般人の日々の経済力、合理性との間に、調和し難い裂け目が口をあいている。それであるからこそ、アカデミーについて言及する時、人々の顔には複雑な表情が浮ばざ・・・ 宮本百合子 「矛盾の一形態としての諸文化組織」
出典:青空文庫