・・・……袴、練衣、烏帽子、狩衣、白拍子の姿が可かろう。衆人めぐり見る中へ、その姿をあの島の柳の上へ高く顕し、大空へ向って拝をされい。祭文にも歌にも及ばぬ。天竜、雲を遣り、雷を放ち、雨を漲らすは、明午を過ぎて申の上刻に分豪も相違ない。国境の山、赤・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・……第一そこらにひらひらしている蝶々の袖に対しても、果報ものの狩衣ではない、衣装持の後見は、いきすぎよう。 汗ばんだ猪首の兜、いや、中折の古帽を脱いで、薄くなった折目を気にして、そっと撫でて、杖の柄に引っ掛けて、ひょいと、かつぐと、・・・ 泉鏡花 「若菜のうち」
・・・あれが髭を生やして狩衣を着て楠正成の家来になってたから驚いた。 次に内容と全く独立した。と云うより内容のない芸術がありますが、あれは私にも少々分る。鷺娘がむやみに踊ったり、それから吉原仲の町へ男性、中性、女性の三性が出て来て各々特色を発・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・滝口に灯を呼ぶ声や春の雨よき人を宿す小家や朧月小冠者出て花見る人を咎めけり短夜や暇賜はる白拍子葛水や入江の御所に詣づれば稲葉殿の御茶たぶ夜なり時鳥時鳥琥珀の玉を鳴らし行く狩衣の袖の裏這ふ螢かな袖笠に毛虫をし・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫