・・・壁の落つる音ものすごく玉突き場の方にて起これり。ためらいいし人々一斉に駆けいでたり。室に残りしは二郎とわれと岡村のみ、岡村はわが手を堅く握りて立ち二郎は卓のかなたに静かに椅子に倚れり。この時十蔵室の入り口に立ちて、君らは早く逃げたまわずやと・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ この手首の自由の問題は弦楽器のボーイングに限らずその他のいろいろな技術の場合にも起こって来るからおもしろい。 玉突きをするのにキュー尻のほうを持つ手の手首を強直しないよう自由に開放することが必要条件である。手首が硬直凝固の状態にな・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・射的でも玉突きでも同様に二つの物体の描く四次元の「世界線」が互いに切り合うか切り合わぬかが主要な問題である。射的では的が三次元空間に静止しているが野球では的が動いているだけに事がらが複雑である。糊べらで飛んでいる蠅をはたき落とす芸術とこの点・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
出典:青空文庫