・・・麦のふすまを二升とね、阿麻仁を二合、それから玉蜀黍の粉を、五合を水でこねて、団子にこさえて一日に、二度か三度ぐらいに分けて、肥育器にかけて呉れ給え。肥育器はあったろう。」「はい、ございます。」「こいつは縛って置き給え。いや縛る前に早・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・崩れのこった二間の廂房の外には、黄瓜の棚と小さい玉蜀黍畑とがあり、窓下には香り高い晩香玉が咲いている。劉向高という、同じ年ぐらいの少しは文字のよめる男が、春桃と同棲している。向高は、春桃が一日の稼ぎを終って廂房に戻って来ると、いつも彼女の背・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・そのランプというものに燈を入れ、家内が揃ってそのまわりに坐っていると、玉蜀黍畑をこぎわけて「どっちだ」「どっちだ」と数人の村人が土を蹴立てて駆けつけて来た。火元はどっちだと消しに集ったので、明治初年の東北の深い夜の闇を一台のランプは只事なら・・・ 宮本百合子 「明治のランプ」
出典:青空文庫