・・・それに前は小林区の現場監督もしていたので木のことではいちばん明るかった。そして冬撰鉱へ来ていたこの村の娘のおみちと出来てからとうとうその一本調子で親たちを納得させておみちを貰ってしまった。親たちは鉱山から少し離れてはいたけれどもじぶんの栗の・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・「おれと、馬さんは現場へ行ぐ、すぐ消防の手配しろ」 冬にはつきものの北風がその夜も相当に吹いていた。なるほど、勇吉の家が、表側ぱっと異様に明るく、煙もにおう。気負って駆けつけ、「水だ、水だ、皆手を貸せ」と叫んだ勘助は、おやと・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
皆様の現場録音を拝見して、きょうの真面目な若い女性の心持に同感いたしました。いくつかの感想もあります。女子職員の声に出されていた質問とその答について順々にとりあげてゆきましょう。 (1)の男女交際ということも、男と女と・・・ 宮本百合子 「悔なき青春を」
・・・組の現場監督の下の親父と、その下につかわれている労働者たちとの関係は、親父が社宅をぶらりぶらり見てまわって、そこに作ってある野菜なんか、一声かけて、さっさと気に入ったのを抜いてゆくという風であるそうだ。親父の息子と喧嘩すると、その子の親たち・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・ 新しい方針で、ラップはいつの時代よりも積極的に生産現場にある男女の青年労働者、労農通信員の文学的創造力へ呼びかけている。その支持と、指導とをラップの任務と認めている。そして、健康なプロレタリアの世界観と社会的労働の経験の中にある若い労・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 生産の現場で、こういうウダールニクが社会主義建設のために行った階級的なたたかいは、五ヵ年計画ときりはなせない歴史的事実だ。ベズィメンスキーは或る電車製作工場内で、組織されたばかりのウダールニクが経験した闘争、犠牲、勝利を、詩劇にした。・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 産別会議情報宣伝部が編輯し、出版した『官憲の暴行』という戦後労働運動弾圧の記録がある。現場の労働者によってかかれたらしいこの記録が、もっと各現場組合の文学的能力を生かしていたら、どんなに浸透的で永続する読後感を一般の読者に印象づけるこ・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・そして竹内被告が書いたその上申書の冒頭に語られている錯交した本人の心理に似合わず鮮明、詳細な、現場見取図というものが、番号入りでのっているのである。 十一月十八日の第二回公判をひかえて、竹内被告の上申書は読売新聞独特の特色を発揮して出来・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・みんな、闘争の現場から貪慾に集められたものだ。ストライキの発端、過程、これにも、こしらえたところはない。 だのに、なぜ書かれた小説はどれも面白いというわけに行かず、作中の人物は、大衆から「どれでも同じようだ。人間が書かれていない」といわ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 現場に落ちていた刀は、二三日前作事の方に勤めていた五瀬某が、詰所に掛けて置いたのを盗まれた品であった。門番を調べてみれば、卯刻過に表小使亀蔵と云うものが、急用のお使だと云って通用門を出たと云うことである。亀蔵は神田久右衛門町代地の仲間・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫