・・・よりははるかに前進した社会性と、自分を生かす可能をもっている。それにもかかわらず、日本の家、家庭、夫と妻の関係の現実の大部分には、なお彼女たちに「伸子」をひとごとと思わせない苦悩の要素が実在している。そうではあるが、それが二十五歳だった「伸・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 貴司悦子さんの近著『村の月夜』を贈られ、それを通読して、私は、母である女のひとが自分の文学的な才能を、子供のために活かすことの自然さに打たれるところがあった。「ローラア」「にわとり」「乗合自動車」などは、直接幼い子供の感覚の内に入って・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・それぞれにその作家の今日の心持が語られているわけなのだが、作家としての特徴を生かすことを語っている徳永直氏の文章が具体的で、わかりよかった。 ほかのあれこれも読んでいるうちに、今日作家が書くこの種の文章に、一つの特色の現れていることに注・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い粘りづよい執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。とにかく、事はあまりに重大すぎて想像に伴なう実感が梶には起らなかった。「しかし、君がそうして自由に外出できるところを見ると、まだ看視はそ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・実生活のあるきわどい瞬間に画家の眼に烙きついた印象を生かすほかはないのである。そうしてそれは洋画家にとって困難であるわりに、日本画家にとっては困難でない。もとより洋画家の内にもこの事に成功した名人は少なくないが、――そうして洋画によって成功・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・塗り残された未完成の画の示唆的なおもしろさ、それを巧妙に生かすのは日本画の伝統の著しい特徴であった。そこには多くの想像の余地が残される。不幸にもそれは堕落してごまかしの伝統を造ったが、それ自身には堕落した手法とは言えない。もし「意味深い形」・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ショーペンハウエルの意志否定はかなり根元的の否定であるが、しかし彼の解脱――意志なき認識や涅槃などにおいては、なお真実に自己を活かすことが出来ると思う。 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・自己を真実に活かすための種々の葛藤。自己の価値と運命とについての信念、情熱、不安。個性の最上位を信じながら社会的勢力との妥協を全然捨離し得ない苦悶。愛の心と個性を重んずる心との争い。個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・一つの不幸を真に意義深く生かす所の力は、あくまでも自己自身についての微妙な、鋭敏な、厳格な認識と批評とである。事実の責任を他に嫁せずして自己に帰することである。我々は自己の運命を最もよく伸びさせるために、いたずらに過去をくやしがるような愚に・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫