・・・けれども、彼におけるその合理主義は決してショウのものではなくて、菊池寛という一個の日本の作家の身についているものであったことは、その合理性そのものが、当時の日本の思想と文学潮流とにとって或る意味では生新なものであったにかかわらず、本質の要素・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・はその描線にいかようの省略があろうとも人間云いならわした愛という言葉、よろこびという言葉、またその歎きに、どのように生新な歴史の質量がうらづけられてゆくものかということについて省略していない。大らかな虹の光りの下に立つ愛の歓喜が心情の純粋に・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ 観光日本が眼をたのしませる何をもつか、ということも大切だろうが其を通じて観る人の精神に如何なる生新な人生の断片をもたらし得たかということこそ大切だと思う。 従来の支那は観光客のために歴代何一つしなかった 葬式されずにころがっている・・・ 宮本百合子 「観光について」
・・・ヨーロッパ戦争という諸条件の後に炭坑夫の息子ローレンスを生んだのであって、日本の自由主義と民主主義とを知らず、又一方に於てキリスト教の女性崇拝の伝統をも持たない社会の現実の中では、生活的にも文学的にも生新なものを生むことは不可能であった。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・世界のプロレタリア文学運動は、世界のブルジョア文化とその文学の創造能力の矛盾と限界を見いだして、人類史の発展的モメントとして現世紀に登場している勤労階級の生新な創造性を自覚したところに生れたのであった。 二八年ころ、日本の進歩的社会科学・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・日に日に新たなる日本であるから、新日本主義も響きとして生新なようでもあるが、日本文学を新たな角度から把握しようとするその態度・方向においては、その非科学的・非歴史的ロマンチシズムに対して、すでに夥しい疑問が一般常識の裡から発せられているので・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・生活そのものに生新溌剌な意欲が漲って、文学でも新しい境地の開拓が自然に人々を誘っているような時代、批評の精神も沈滞していよう筈はないのである。 時代によって、人間の善意の表現も極々の転形を示すのだが、今日私たち日本の文学の成長の可能は、・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・描写の手法も長篇小説の分野に或る生新さを与えるものをもっている。フランス文学が「ジャン・クリストフ」を持っていることは、一つの誇りであるが、この「チボー家の人々」はその後の世代の姿を、描かれている内容によってばかりでなくその描きかたにおいて・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
・・・過去十数年に亙った政府の精神圧殺方針に対して堅い内部抵抗の力を保っていて、今日、将に、その重石がとれ、生新溌剌な圧力の高い迸りを見せている部分も、明らかに存在している。だがこの節の一般文化面を見わたしたとき、私たちの率直な感想は、どうだろう・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・何か目をそらし何か正面から自身の心とさえ取組もうとしない今日の多数のインテリゲンツィアを、先ず自身の日常の可能の自覚の前にぴったりと引据えること、その任務こそ、ヒューマニズムが生新溌剌とした新文芸思潮として負うている任務の最も重大な一つであ・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
出典:青空文庫