・・・これでれんが来れば申し分はない。――いいお正月を迎えよう、ね?」「いや!」 彼女は睫毛まで光る涙をあふれさせ、良人の手を離した。「貴方は本当のエゴイストよ。御存じ? 私又れんに迄云い訳しなけりゃあならないなんて……。もう沢山よ。・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・青年団の集まりなど申し分ない口実だ。多勢集まり、けんかはしない約束をして飲み始めた。ああ、実際村の者は酔うとよくけんかをするのです、とてもよくやる。けれども、青年団員という文明的な名を持つ名誉上、けんかはすまい話し合が出来た。 そして、・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・ 失礼な申し分かも知れませんが若い娘共に只悲し味と云うものばかりほか注ぎ込んで下さらないのなら、どうぞ筆をお持ちになることをやめて下さいまし。 若しつくそうと思って居て下さる方々へはどうぞ価値のある力強い、美術的な又芸術的な、一つの・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・だから定めし今度の恋愛には申し分があろうと思われたらしい。 第一に恋愛というものを、私は社会的階級的全生活の一部分として理解しているが、決して恋が命とは考えていません。心中する芝居を見るとカンシャクをおこす女であります。 又、恋愛は・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・バルザックの聴衆はそれ独特のものであり、そのものとして申し分のないものであり、他とは別箇のもので、他と同様に生存の権利を主張し得るものである。」そして、テエヌはそのことこそ「彼の文体の癖がわれわれの生活の習慣と適合し、作家たるバルザックが公・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・気候が青物には申し分ないが、小麦には少し湿っているとの事。 この時突然、店の庭先で太鼓がとどろいた、とんと物にかまわぬ人のほかは大方、跳り立って、戸口や窓のところに駆けて出た、口の中をもぐもぐさしたまま、手にナフキンを持ったままで。・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・「そちが話を聞けば、甚五郎の申し分や所行も一応道理らしく聞こえるが、所詮は間違うておるぞよ。しかしそちも言うとおり、弱年の者じゃから、何かひとかどの奉公をいたしたら、それをしおに助命いたしてつかわそう」「はっ」と言って源太夫はしばらく畳・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫