・・・ 三十の年に恩人の無理じいに屈して、養子に行き、養子先の娘の半気違いに辛抱しきれず、ついに敬太郎という男の子を連れて飛びだしてしまい、その子は姉に預けて育ててもらう、それ以後は決して妻帯せず、純然たるひとり者で、とうとう六十余歳まで通し・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・初めは何者とも知れませんでしたが、森を出て石垣の下に現われたところを見ると、十一か十二歳と思わるる男の子です。紺の筒袖を着て白もめんの兵児帯をしめている様子は百姓の子でも町家の者でもなさそうでした。 手に太い棒切れを持ってあたりをきょろ・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・その人の子を産みたいような男子、すなわち恋する男の子を産まないでは、家庭のくさびはひびが入っているではないか。ことに結婚生活に必ずくる倦怠期に、そのときこそ本当の夫婦愛が自覚されねばならないのだが、そうしたときに、恋愛から入っていなくては思・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・上は男の子供ばかりの殺風景な私の家にあっては、この娘が茶の間の壁のところに小乾す着物の類も目につくようになった。それほど私の家には女らしいものも少なかった。 今の住居の庭は狭くて、私が猫の額にたとえるほどしかないが、それでも薔薇や山茶花・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・金之助さんという名前からして男の子らしく、下ぶくれのしたその顔に笑みの浮かぶ時は、小さな靨があらわれて、愛らしかった。それに、この子の好いことには、袖子の言うなりになった。どうしてあの少しもじっとしていないで、どうかすると袖子の手におえない・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
一 貧乏な百姓の夫婦がいました。二人は子どもがたくさんあって、苦しいところへ、また一人、男の子が生れました。 けれども、そんなふうに家がひどく貧乏だものですから、人がいやがって、だれもその子の名附親・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
岡の上に百姓のお家がありました。家がびんぼうで手つだいの人をやとうことも出来ないので、小さな男の子が、お父さんと一しょにはたらいていました。男の子は、まいにち野へ出たり、こくもつ小屋の中で仕事をしたりして、いちんちじゅう休・・・ 鈴木三重吉 「岡の家」
・・・それから。(上沓を床に擲夏になるとメラルへ行っていなくてはならないのも、お前さんが海が嫌いだからだわ。それから男の子が生れたのにエスキルという名を付けさせられたのも、お前さんのお父っさんがエスキルといったからだわ。考えて見る・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・上の姉さんには、五つくらいの男の子がまつわり附いている。下の姉さんには、三つくらいの女の子が、よちよち附いて歩いている。「さ、ひとつ。」小坂氏は私にビイルをついでくれた。「あいにくどうも、お相手を申上げる者がいないので。――私も若い・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ 中学一年の男の子は、正坐して、そうしてきちんと両手を膝に置き、実に行儀よく放送の開始を待っている。この子は、容貌も端麗で、しかも学校がよく出来る。そうして、お父さんを心から尊敬している。 放送開始。 父は平然と煙草を吸いはじめ・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
出典:青空文庫