・・・たとえば森と畑地との境のようなところですと、畑のほうが森よりも日光のためによけいにあたためられるので、畑では空気が上り森ではくだっています。それで畑の上から飛んで来て森の上へかかると、飛行機は自然と下のほうへ押しおろされる傾きがあります。こ・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・庭はほとんど何も植わっていない平庭で、前面の建仁寺垣の向こう側には畑地があった。垣にからんだ朝顔のつるが冬になってもやっぱりがらがらになって残っていたようである。この六畳が普通の応接間で、八畳が居間兼書斎であったらしい。「朝顔や手ぬぐい掛け・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・これからあんた先へ行くと、畑地がたくさんありますがな」「この辺の土地はなかなか高いだろう」「なかなか高いです」 道路の側の崖のうえに、黝ずんだ松で押し包んだような新築の家がいたるところに、ちらほら見えた。塀や門構えは、関西特有の・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ 首を一つふって仙二は垣根からはなれてどこと云うあてもなく畑の方に歩き出した。 畑地の足のうずまる様なムクムクの細道をうつむいて歩きながら青い少し年には骨立った手を揉み合わせては頼りない様に口笛を吹いた。 畑の斜に下って居る桑の・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・ はてしなくつづく広い畑地の間のただ一本の里道を吹雪に思いのままに苦しめられながら私は車にゆられて行った。 私の行く道は大変に長く少しの曲りもなしにつづいて居る。 小村をかこんで立った山々の上から吹き下す風にかたい粉雪は渦を巻き・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
・・・ 千世子はこれから草を刈ったり耕したりしなければならない畑地が苗を下すに合うか合わないか分らない様につくつくとのびて行くか、根ざしさえ仕ずに枯れて仕舞うんだか分りもしない事でありながら肇についてそんな事の思われたのはいかにもいやだった。・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・それは、その村人自身にならなければ分らないけれ共、気候が悪いし、冬の恐ろしく長い事、諸国人の寄合って居る事、豊饒な畑地の少ない事、機械農業の行われない事、などは、他国者でも分ることである。 明治の初年、この村が始めて開墾されてから、変っ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 雄鴨は、危険なものに立ち向った時に、いつでもする様に体をズーッと平べったくし、首丈を長々とのばして、ゆるい傾斜の畑地の向うに、サラ……と音を立てて行く光ったものを見つめた。「なあんだ、 フフフフなあんだお前水だよ。水が・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
出典:青空文庫