・・・豚は全く異議もなく、はあはあ頬をふくらせて、ぐたっぐたっと歩き出す。前や横を生徒たちの、二本ずつの黒い足が夢のように動いていた。 俄かにカッと明るくなった。外では雪に日が照って豚はまぶしさに眼を細くし、やっぱりぐたぐた歩いて行った。・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・ この作品が、日本の今日の映画製作の水準において高いものであることは誰しも異議ないところであろうと思う。一般に好評であるのは当然である。けれども、この次の作品に期待される発展のために希望するところが全くない訳ではない。 溝口健二は、・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・が一つの記念碑的な作品であることに異議ない。七年間の労作に堪ゆる人間が、枯淡であろうとも思わないし、無計画であるとも思わない。同じ十月の『文芸』に中村光夫氏が短い藤村研究「藤村氏の文学」を書いていて、中に「氏は自己の精神の最も大切な部分を他・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・「どうだね、一つここんところの壁へ何かかけた方がいいと思わないか?」「異議なし」「町ソヴェトの倉庫んなかに、元絹問屋の客間にあったっていう、でっかい絵があるぜ」「ふーむ。どんな絵だい?」「なんでも黒い髪をたらした女が踊っ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・自己の性能を発揮するこそヒューマニズムであるとする論に、議論としては異議を認めなかった小市民知識人の大部分も、実際生活では自分たちのうけた知識人としての教養によって日々一定の時間に出勤し、或は労働し、同僚・上役との接触に揉まれ、技術上の問題・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・一族討手を引き受けて、ともに死ぬるほかはないと、一人の異議を称えるものもなく決した。 阿部一族は妻子を引きまとめて、権兵衛が山崎の屋敷に立て籠った。 おだやかならぬ一族の様子が上に聞えた。横目が偵察に出て来た。山崎の屋敷では門を厳重・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・だから僕の画を本当だとするには、異議はない。そこでコム・シィはどうなるのだ。」「まあ待ち給え。そこで人間のあらゆる智識、あらゆる学問の根本を調べてみるのだね。一番正確だとしてある数学方面で、点だの線だのと云うものがある。どんなに細かくぽ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・それにはたれも異議がなかった。 与力は願書をいちの手から受け取って、玄関にはいった。 ―――――――――――――――― 西町奉行の佐佐は、両奉行の中の新参で、大阪に来てから、まだ一年たっていない。役向きの事はすべて・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・これをそのままにとって用いるときは、誰もその間に異議をはさむことはできない。しかしそうばかりしていると、そのことばの用いられる範囲がせばめられる。この範囲はアルシャイスムの領分を限る線によって定められる。そしてそのことばは擬古文の中にしか用・・・ 森鴎外 「空車」
・・・そして、胸の中で、自分は安次を引取ることに異議を立てるのではなく、秋三の狡猾さに立腹しているのだと理窟も一度立ててみた。が、事実は秋三や母のお霜がしたように、病人の乞食を食客に置く間の様々な不愉快さと、経費とを一瞬の間に計算した。 お霜・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫