・・・その上この頃は不如意のため、思うように療治をさせることも出来ない。聞けば南蛮寺の神父の医方は白癩さえ直すと云うことである。どうか新之丞の命も助けて頂きたい。………「お見舞下さいますか? いかがでございましょう?」 女はこう云う言葉の・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・だから軍医官でも何でも、妙にあいつが可愛いかったと見えて、特別によく療治をしてやったらしい。あいつはまた身の上話をしても、なかなか面白い事を云っていた。殊にあいつが頸に重傷を負って、馬から落ちた時の心もちを僕に話して聞かせたのは、今でもちゃ・・・ 芥川竜之介 「首が落ちた話」
・・・その人はたいそう腕のある人だけれどもだんだんに目が悪くなって、早く療治をしないとめくらになって画家を廃さねばならなくなるから、どうか金を送って医者に行けるようにしてやりたい。おまえ今日も一つほねをおってくれまいか」 そこで燕はまた自分の・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・私が此処に指摘したような性急な結論乃至告白を口にし、筆にしながら、一方に於て自分の生活を改善するところの何等かの努力を営み――仮令ば、頽廃的という事を口に讃美しながら、自分の脳神経の不健康を患うて鼻の療治をし、夫婦関係が無意義であると言いな・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・足くびの時なぞは、一応は職業行儀に心得て、太脛から曲げて引上げるのに、すんなりと衣服の褄を巻いて包むが、療治をするうちには双方の気のたるみから、踵を摺下って褄が波のようにはらりと落ちると、包ましい膝のあたりから、白い踵が、空にふらふらとなり・・・ 泉鏡花 「怨霊借用」
・・・……今時……今時……そんな古風な、療治を、禁厭を、するものがあるか、とおっしゃいますか。ええ、おっしゃい。そんな事は、まだその頃ありました、精盛薬館、一二を、掛売で談ずるだけの、余裕があっていう事です。 このありさまは、ちょっと物議にな・・・ 泉鏡花 「木の子説法」
・・・ 腰元は、諭すがごとく、「それでは夫人、御療治ができません」「はあ、できなくってもいいよ」 腰元は言葉はなくて、顧みて伯爵の色を伺えり。伯爵は前に進み、「奥、そんな無理を謂ってはいけません。できなくってもいいということが・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・「……何とも申様がない……しかし、そこで鹿落の温泉へは、療治に行ったとでもいうわけかね。」「湯治だなんのって、そんな怪我ではないのです。療治は疾うに済んだんですが、何しろ大変な火傷でしょう。ずッと親もとへ引込んでいたんですが、片親で・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・その頃は多分痔を療治していられたかと想う。生れて初めて外科の手術を受けたとのことで、「実に聊かな手術なのに……」と苦笑して、その手術の時のことを話された。 軽い手術だから医者は局部注射の必要もないと言ったが、夏目さんは強いてコカエン注射・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・医者に見せますと容易ならぬ眼病だと言われて、それから急にできるだけの療治にかかりましたが治る様子も見えないのでございます。 お俊はなかなか気をつけて看護してくれました。藤吉からは何の消息もありません。私は藤吉のことを思いますと、ああ悪い・・・ 国木田独歩 「女難」
出典:青空文庫