・・・ 段々発熱の気味を覚えるから、蒲団の上に横たわりながら『日本』募集の桜の歌について論じた。歌界の前途には光明が輝いで居る、と我も人もいう。 本をひろげて冕の図や日蔭のかずらの編んである図などを見た。それについてまた簡単な趣味と複雑な・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・ ジイドも、彼の細君の発熱についてはそういう本質の差を知っており、又当然知ろうとするであろうのに、芸術家の死命を制する人間的叡智の根源において、歴史の相貌の質的相異の知覚を失っているばかりか、それを自ら恐怖しもしないというのは、何という・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・当時、国内国外呼応して発熱的に高まってきつつあったファシズムの暴力と圧力に対して、文化と教養に磨かれた精神はきわめて敏感であった。いつの時代でも、より精練された心情はより想像力に富んでいるから、当時の日本の知性は、ファシズムの野蛮さをめいめ・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・ 一人、自分から勝手にひどいことをする。そこへ別のが入って来、黙って見て居たが、泣き出す。すっかり泣いてからだまって出てゆく。夜中又その女が来、二三度勝手をする。 発熱。 それから、まるで女がいやでたまらず。 今二十七八、や・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・今朝、発熱し動かれない。私一人行く。 長崎図書館は、諏訪公園内に在る小ぢんまりした図書館だ。昔、グラント将軍が来た時、滞留させるに適当なところがなく、其為に交親館というのを此処に建ててその用に供した。其を改造したものだそうだ。入口から、・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・と気休めを求めていたが、昨日は気分悪く、目が醒めたら発熱していた。K氏からの紹介で、長崎図書館長、永山時英氏を訪ねる予定なのであった。私は独り俥で出掛けた。 図書館は、諏訪公園の中に在る。グラント将軍が来朝した時建てた交親館を改造した小・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 湯川秀樹博士は、このような軍事的発熱状態にある日本へ帰って来た。彼の科学者としての声に、ヒューマニティーある科学の展望を与える響を期待するのは、決してわたし一人ではないことを信じている。 現代の平和と原子兵器禁止の要求にあらわされ・・・ 宮本百合子 「私の信条」
出典:青空文庫