・・・一方には、小説は学問や教養で書くのではない、という、創作における教養の役割を否定的に見た人々があり、その大づかみな分けかたの中には自然主義から発足した作家たちも、白樺のように人間性にじかに立って自分の声を生のままで育てようと努めていた人々も・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・けれども平林氏の死にしろ本庄氏の死にしろ、或る発足をした作家たちの今日における若き生涯の閉されかたとして見るとき、生きている私たちに語られて来る声は、かりにどっちを向いて耳をおさえたにしろ、その手をとおして聴えて来ずにいないものだという感じ・・・ 宮本百合子 「作家の死」
・・・く投げかけられている封建的なもの、それによって受けているものは損害の外にないことを知りながら、野暮にそれと正面衝突は気質的に出来ず、あらゆる反撥を知的な優越と芸術への献身に打込もうとしていた彼の文学的発足が、「鼻」「芋粥」「羅生門」のような・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・花曇りなどと云う美的感情に発足したあれは胡麻化しで、実は塵埃が空を覆うのに違いない。一時間も外を歩くと歯の中までじゃりじゃりになるようだ。その心持も厭だし、春は我々こそと云うように、派手な色彩をまとった婦人達が、吹き捲る埃風に髪を乱し、白粉・・・ 宮本百合子 「塵埃、空、花」
・・・によって日本の文学のために極めて意義ふかい発足を行い、ゴーゴリ、ゴーリキイ、ガルシン、アンドレーエフなどの作品を翻訳紹介しつつ三十九年には「其面影」四十年には「平凡」と創作の業績を重ねながら、目前の日本文学一般がおくれていることへの不満のは・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ 先ず、私たちの生棲する地球の上に、人類というものの生活はどんな風に発足して、発達して来たものだろうか。民族の分布、社会の発生、習俗の伝承、あらゆる科学・芸術はどんなにして生まれて来たのだろうか。それ等の問いに答えるのは世界文化史である・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・アメリカは安い商品を如何に多く市場へ販売するかという資本家の慾に発足した商品の大量生産であるが、ソヴェトは目下非常に購買力の高くなったプロレタリアに如何に早く多くの購買力を充たすかという点から起って来る大量生産だ。まだ経済的に余裕がないし、・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・そして、一九五〇年は世界最大の人口をもつ中国が、中華人民共和国として発足しているという驚歎すべき事実によって、広大なアジアに全く新しい歴史の頁をもたらしました。即ち、世界の正直な人民は、戦争挑発をしりぞけ、自分の国のなかにおける専制的な権力・・・ 宮本百合子 「宋慶齢への手紙」
・・・ 全篇の結論として、目下問題とされている家族制度、家庭生活改善の理想を徒に外国の風習などに摸倣せず、日本は日本民族独特の見地から、識見を以て発足すべきであると云う主旨には、恐らく何人も意義を挾む者はないでしょう。 あらゆる国々の習俗・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・すなわち彼を茸狩りに発足せしめたのであった。それから先の茸との交渉は厳密に彼自身の体験である。茸狩りを始めた子供にとっては、彼の目ざす茸がどれほどの使用価値や交換価値を持つかは、全然問題でない。彼にはただ「探求に価する物」が与えられた。そう・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫