・・・人間の生活が現在にあるよりももっと条理にかなった運営の方法をもち、互に理解しあえる智慧とその発露を可能にする社会の方がより人間らしく幸福だという判断、あこがれに、何の邪悪な要素があるだろう。よりひろやかで、充実した人間性を求めるということの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・女の生活のそういう悲しみ、諦めの面にふれて来ると、西洋の社会でも日本の社会でも、ちがいは殆んどないように見え、女の心の発露に対してもきめられている生活条件の方向が感じられるのである。〔一九三九年七月〕・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ 友情のそういう健全な敏感さは、日常の接触のおりおり、みだす力としてより整える力として発露して、異性の間の友情をも調整して行くものである。くだらない偶然で紛糾をひきおこすことは避けるだけの実際性にも富んでいることが生活態度としてある貴い・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 新日本文学会は、そういう希望の発露として企てられた。雑誌『新日本文学』は、人から人へ、都会から村へ、海から山へと、苦難を経た日本の文学が、いまや新しい歩調でその萎えた脚から立ち上るべき一つのきっかけを伝えるものとして発刊される。私たち・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 天才と呼ばれる様な人は、その時の美くしい発露を永遠につづけ得るのである。 即ち、その時の若さが不朽なのである。 ――○―― 小剣氏の様に又、鈴木氏の様にあまり物事がきっぱりきっぱりがすきと云う人は、私のきら・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・そして、それは甚兵衛の場合のような周囲の必然と個人の心理を動機とするより、もっと異った人間と歴史の他の積極面で発露することもあるのではなかろうか。いろいろとそういうような詮索が感じられて来て、読者は、これらの菊池寛のテーマ小説が、人間性に率・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・生活感情の全くちがう父の家の雰囲気では、そのころのわたしの妻としての心痛や緊張の思いが日常生活のうちに自然な発露を見出せなくてやってゆけなかった。 上落合へ移ってからわたしは「バルザックから何を学ぶか」その他の感想評論をかき、やっと「乳・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・詩人の間に諷刺詩の制作の要求がおこっていることは、今日私たちが取りくんでいる社会情勢との関係で謂わば自然な人間的要求の一発露でしょう。詩のジャンルとして諷刺詩というものがあり得るとか、あり得ないとかいう論議より先に、私共は実際生活の場面で屡・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・至純な愛が発露した時、若しあらゆる具体的表現が、自分の愛する者にとって、総てよい意味に必要である場合、勿論それは惜しみなく注がれるでしょう。然し、愛する者がそれを要としない場合、愛はその独自な本質から、自足して安らかな筈なのです。 これ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・彼らは、当時の日本をいっぱいにしていたやぼな社会的・階級的ごたごたからは目をそらして、世界人類の能力の輝やかしい可能とそのおどろくべき発露に関心を集めた。これは、日本の知性の歴史にとって忘られない明るさ、つよい憧憬、わが心はこの地球を抱く思・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫