・・・白衣に白布の顱巻したが、面こそは異形なれ。丹塗の天狗に、緑青色の般若と、面白く鼻の黄なる狐である。魔とも、妖怪変化とも、もしこれが通魔なら、あの火をしめす宮奴が気絶をしないで堪えるものか。で、般若は一挺の斧を提げ、天狗は注連結いたる半弓に矢・・・ 泉鏡花 「茸の舞姫」
・・・が、鳥旦那は――鷺が若い女になる――そんな魔法は、俺が使ったぞ、というように知らん顔して、遠めがねを、それも白布で巻いたので、熟とどこかの樹を枝を凝視めていて、ものも言わない。 猟夫は最期と覚悟をした。…… そこで、急いで我が屋へ帰・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・あとへ続くと、須弥壇も仏具も何もない。白布を蔽うた台に、経机を据えて、その上に黒塗の御廚子があった。 庫裡の炉の周囲は筵である。ここだけ畳を三畳ほどに、賽銭の箱が小さく据って、花瓶に雪を装った一束の卯の花が露を含んで清々しい。根じめとも・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 新所帯の仏壇とてもないので、仏の位牌は座敷の床の間へ飾って、白布をかけた小机の上に、蝋燭立てや香炉や花立てが供えられてある。お光はその前に坐って、影も薄そうなションボリした姿で、線香の煙の細々と立ち上るのをじっと眺めているところへ、若・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・それから電灯がついて三十人に近い会衆は白布のテーブルを間にして、両側の椅子に席を取った。 主催笹川の左側には、出版屋から、特に今晩の会の光栄を添えるために出席を乞うたという老大家のH先生がいる。その隣りにはモデルの一人で発起人となった倉・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・ 勿論、彼等は、もう、白布の袋の外観によって、内容を判断し得るほど、慰問袋には馴れていた。彼等は、あまりにふくらんだ、あまりに嵩ばったやつを好まなかった。そういう嵩ばったやつには、仕様もないものがつめこまれているのにきまっていた。 ・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・同じく祭りのための設けとは知られながら、いと長き竿を鉾立に立てて、それを心にして四辺に棒を取り回し枠の如くにしたるを、白布もて総て包めるものありて、何とも悟り得ず。打見たるところ譬えば糸を絡う用にすなるいとわくというもののいと大なるを、竿に・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・アグリパイナは折しも朝の入浴中なりしを、その死の確報に接し、ものも言わずに浴場から躍り出て、濡れた裸体に白布一枚をまとい、息ひきとった婿君の部屋のまえを素通りして、風の如く駈け込んでいった部屋は、ネロの部屋であった。三歳のネロをひしと抱きし・・・ 太宰治 「古典風」
・・・ 姉の左腕の傷はまだ糸が抜けず、左腕を白布で首に吊っている。義兄は、相変らず酔っていて、「おもて沙汰にしたくねえので、きょうまであちこち心当りを捜していたのが、わるかった。」 姉はただもう涙を流し、若い者の阿呆らしい色恋も、ばか・・・ 太宰治 「犯人」
・・・テエブルの白布も、テエブルのうえの草花も、窓のそとの流れ去る風景も、不愉快ではない。僕はぼんやりビイルを呑む。」「女にも一杯ビイルをすすめる。」「いや、すすめない。女には、サイダアをすすめる。」「夏かね?」「秋だ。」「た・・・ 太宰治 「雌に就いて」
出典:青空文庫