・・・万葉集の巻の三には大津皇子が死を賜わって磐余の池にて自害されたとき、妃山辺の皇女が流涕悲泣して直ちに跡を追い、入水して殉死された有名な事蹟がのっている。また花山法皇は御年十八歳のとき最愛の女御弘徽殿の死にあわれ、青春失恋の深き傷みより翌年出・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・女帝から皇女、その他宮廷婦人をはじめ、東北の山から京へ上った防人とその母親や妻の歌。同時に遊女、乞食、そういう人までが詠んだ歌を、歌として面白ければ万葉集は偏見なく集めている。日本の古典の中に万葉集ほど人民的な歌集はなかった。万葉集以前の古・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・天皇はあらひと神ではなくて、人間の男であり、皇后、皇太子、皇女たちは、その妻や子息、息女であることがわからされた。 人々は、人間である天皇、人間である三笠宮に親愛感をもつことに馴れて来た。皇太子が、唯一の御馳走は、カレーライスだと思って・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・何ぜなら、コルシカの平民ナポレオンが、オーストリアの皇女ハプスブルグのかくも若く美しき娘を持ち得たことは、彼がヨーロッパ三百万の兵士を殺して贏ち得た彼の版図の強大な力であったから。彼はルイザを見たと同時に、油を注がれた火のようにいよいよロシ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫