・・・ 或る種の作家にとっては一人の人の現実の上にこの動きの分裂が顕著であるし、今日の文学全般を瞰れば、客観的に一つの目立つ現象として作家と作品との関係について語るべき点となって来ている。 今年のしめくくりとして考察するなら、私たちは慎重・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・ この頃、銀座の裏通りを歩いたりすると一寸した趣味とげてものをとりまぜたような店がふえて来ているのが目立つ。 一応贅沢が人目に立ってはいけない折から、本当の高貴なものは反物にしろ器物にしろ街頭からひっこんだところで動いているわけなの・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・誰もそんな髪はしていませんよ、大変目立つ髪ですね。あんな目立つ髪をしているのは誰だと物笑いになりますよ、いずれあなたのことだから、何かの絵でも御覧になったのでしょうが、おやめなさい。そういう意味のことを、こわい表情で凝っと目を据えていわれた・・・ 宮本百合子 「青春」
一九四七年の文学の動向として大へん目立つことは大体三つあると思います。 その一つは、一九四六年中は戦争に対する協力者としての活動の経験から執筆をひかえていたどっさりの作家が、公然と活動をはじめたことです。これは日本の政・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・ さらに昨今の特徴として目立つ傾向はデカダニズム、またはエロティシズムです。織田作之助、舟橋聖一、北原武夫、坂口安吾その他の人々の作品があります。 個々の作家についてみればそれぞれ異った作風、デカダンスの解釈とエロティシズムへの態度・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 枝々に白く雪の凍った並木道の間を電車が走ってくるが、チラチラとアーク燈のつよい光りをあびるごとに、風にはためく赤旗が、美しく目立つ。「労働宮」のわきを電車がまわるとき、ニーナはなんとも云えないよろこびで、三月八日と大きく輝いている・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・際立った音と目立つ象を持たないからこの神々の容赦ない視線も逃れ、場合によると、活気を添える味方とさえ思われる。それに、破壊神呪咀の神は、自分の正面に来るものしか見えないのが特性です。三方は明いている。そこが私の領分です。どんな破滅が激しかろ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・まわりを房々だした束髪で、真紅な表のフェルト草履を踏んで行くのだが――それだけで充分さらりと浴衣がけの人中では目立つのに、彼女は、まるで妙な歩きつきをしていた。そんなけばけばしいなりをしながら、片手で左わきの膝の上で着物を抓み上げ持ち上った・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 強いて目立つ色の着物でゾロットする事などは学者肌とも云う様な肇の出来る事ではない。 色彩と云うものに対しての気持は一人前以上に強いのだ。などと云うと千世子は短っかく「ザンギリ」にした頭をまるむきに出して青っぽい袴と黒か白位の着・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・と引き合され、これらの二つの作品と、二人の作者の態度が全く対蹠的であることで目立つというのは尤もであろう。「贋金つくり」において作者の興味をとらえているのは、人間性の時代的なこわれかたとその各破片のままの閃きの姿である。「チボー家の人々」を・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
出典:青空文庫