・・・下性の悪いのは少し気をつけて習慣をつけてやれば直るだろうと思った。それでまずボール箱に古いネルの切れなどを入れて彼の寝床を作ってやった。それと、土を入れた菓子折りとを並べて浴室の板の間に置いた。私が寝床にはいる前にそこらの蚊帳のすそなどに寝・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・ からだの怪我や片輪は、直るものなら病院で直してくれる。傷ついた心、不具な理性を直してくれる病院はないものか。昔はそれがあった。それが近代の思想の嵐に倒潰した。そうしてこれに代わるべき新しい病院はまだ建たぬ。可愛相に。 病院も正月で・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・二で直るいいか」大将両腕を上げ整枝法のピラミッド形をつくる。大将「いいか。果樹整枝法、その一、ピラミッド。一、よろし。二、よろし、一、二、一、二、一、やめい。」大将「いいか次はベース。ベース、一、の号令でこの形をつくる。・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・国男夫婦は家が直ると心持まで変ることを大変たのみにして、何でもすべていいことは家が直ってからという期待につながれて居ります。この心理は面白いのです。私も激励して笑い乍ら「居は心をうつすそうだからね」と云って居ります。そしたら国男もしっかり勉・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 奥さんもなる程そうかと思って、強いて心配を押さえ附けて、今に直るだろう、今に直るだろうと、自分で自分に暗示を与えるように努めていた。秀麿が目の前にいない時は、青山博士の言った事を、一句一句繰り返して味ってみて、「なる程そうだ、なんの秀・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・あの御機嫌の悪いのは、旨い物でも食わせると直るのだ」 九郎右衛門のこう云ったのも無理はない。三人は日ごとに顔を見合っていて気が附かぬが、困窮と病痾と羇旅との三つの苦艱を嘗め尽して、どれもどれも江戸を立った日の俤はなくなっているのである。・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・そうして、車体の屋根の上にとまり直ると、今さきに、漸く蜘蛛の網からその生命をとり戻した身体を休めて、馬車と一緒に揺れていった。 馬車は炎天の下を走り通した。そうして並木をぬけ、長く続いた小豆畑の横を通り、亜麻畑と桑畑の間を揺れつつ森の中・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫