・・・ 日露戦争直後で負傷者が大勢療養に来ていたのはその時であったかと思う。郷里の中学の先輩がその負傷者の中に居たのにひょっくりめぐり合って戦争の話を聞かされ、戦争というものの不思議さをつくづく考えさせられた。 その後にまた、大湯附近の空・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ 大戦直後に刊行された「もう一つのドイツ」も弟クラウスとの共著であるが、ここには、ナチス・ドイツ以外のもう一つのドイツのあることを訴えたものであった。ドイツの国民性を解剖し、ワイマール共和国の功罪を論じ、一知識人の日記の形でナチス運動の・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ カロッサの小説は、極く始めですが、大戦直後のドイツの真面目な心の諸問題を扱っていて面白いし、不幸をそういう形で経験し、表現し得た二十五年前を考えます。シュミット・ボンにもこの時代の作品で一寸特色のあるのがありました。ヤーコブという人の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・小林の死の直後日本プロレタリア作家同盟と日本プロレタリア文化連盟とは、小林多喜二全集刊行委員会を組織した。各団体から委員が出て、作家同盟からは、小林の死、その葬儀をとおしてほんとうに同志らしく行動した江口渙をはじめわたしをもふくむ数人の委員・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・ ところが、この金襴の帆を順風に孕ませた宝船、文芸懇話会というものの文学に対する性質の矛盾は、この一九三五年七月、文芸懇話会賞が与えられた直後、授賞者決定に当って審査員の投票では島木健作氏が選に入っていたにもかかわらず、公表されない特別・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・多の才能を殺した戦争の恐怖からある程度遠のいて暮せたこの作家が、それらの恐怖、それらの惨禍、それらの窮乏にかかわりない世界で、かかわりない人生断面をとり扱った作品が、ともかく日本で治安維持法が解かれた直後のジャーナリズムを独占した、というこ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・革命直後、メイエルホリドが南露からモスクワへ帰って来て、教育人民委員会の演劇部議長になってから段々今日までやって来た仕事ぶりを見て、それはハッキリ云える。 ソヴェトの劇団を揺すぶりかえした有名なゴーゴリの「検察官」の全然新しい演出。失敗・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・第一次大戦直後のプロレタリア文学でもない。世界ファシズムの発生につれ、ファシズムから被害を蒙むる社会層が、労働者・農民ばかりでなく、広く小市民・インテリゲンチャ、進歩的な自由主義者の範囲にまで及んできて、民族の自立とその文化的な伝統さえ抹殺・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・終戦直後、大きな軍需会社は即日職員の解雇をした。そして、一人当りいくらかの纏まった金を、解雇手当として与えた。軍人は部隊の解散に伴って沢山の資材を背負い出しもしたし、金も貰った。特に将校階級がトラックを使ってまで、軍の物資を分け取りしたこと・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 太郎兵衛はそれまで正直に営業していたのだが、営業上に大きい損失を見た直後に、現金を目の前に並べられたので、ふと良心の鏡が曇って、その金を受け取ってしまった。 すると、秋田の米主のほうでは、難船の知らせを得たのちに、残り荷のあったこ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫