・・・ ゴーリキイをここから救ったのは彼の溢れるような文学的才能を常に正しい道にひきとめ、それを押しすすめた独特の正直さ、現実をあるがままに勇気をもって直視する能力であった。その力によってゴーリキイはながい歴史の波瀾の間に自分自身の結合せらる・・・ 宮本百合子 「私の会ったゴーリキイ」
・・・一切の借り物を捨て、自分の直視にのみ即して考えてみるべきであった。――こう考えている内に、彼の感想の内から二つの語が自分の批評の証明として心に浮かんだ。彼は「徹底」について語りながら言う、徹底を言う人が案外に徹底していない、言わぬ人にかえっ・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・ただ人はこの実在を理解し得るために、空間的、物質的、数量的の考え方を捨てて、純粋な意味価値の世界を直視し得なくてはならぬ。そこには過去現在を通じて数限りのない人間がその生命を投入し、その精神をささげて実現に努力した大いなる「価値の体系」があ・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫