・・・何となれば、幾何学においては、その根本概念が感官的直観と一致するが故に、それは何人にも受入れられるが、形而上学的問題においては、最始の根本概念を明晰に判明に把握することが困難なのである。本来の性質からは、それは幾何学のものよりも、一層明晰な・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・――直観なすったところじゃ違いませんが、水分をふくむから召上りではあります」 派手な旗を長く巻いて棒にしたようなマカロニを持って帰りながら二人は随分笑った。「直観はいいわね」「面白いんですね、なかなか」 網野さんは濃い眉毛を・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ 婦人が、天成の直観で、不具な形に出来上って人民の重荷であった過去の日本の「政治」に、自分たちをあてはめかねているのは、面白いことだと思う。婦人の責任は、身に合いかねる過去の社会きりまわしの形を、娘として、妻として、母としての自分たちの・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・けれども、職人と芸術家とをよりわける、彼女の魂の満足はフランス人の形式のうちにはなくて、スーのリアリスティックな直観のうちにあった。 どうして君は女に生れて来たんだ。その老匠は眉をひそめて口髭を一ひねりした。どうして君は女に生れて来たん・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・その社会的良心を云々しようとすること並に、「人間性の全体的表現は行為的瞬間に直観的に認識される」と漠然規定して人間行為の社会関係を抽出してしまっていること等は、創作方法におけるリアリズムの理解にあたって、文学は文学そのものとして常に進歩的で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・モチーフを、「作家の内的要求が、テーマの直観的な端緒を」とらえるものとして理解することは、私たちの心の具体的なありように即している。「モチーフとは、作品にとっては作者なる母体につながる臍の緒である」本当にそうではないだろうか。 例えば青・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・文学的直観の表現ではなく、かんでわかる表現でなく、文学のそとのあらゆる市民に、社会現象の一つとして、人間の創造的な作業の一つの発露として、文学現象をわからせるための努力をした。 そのことでは、うちけすことのできない貢献をしている。文学は・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・無礼を顧ずいえば、彼等は僧として、高邁な信仰を得ようとする熱意も失っていると同時に、芸術的美に沈潜することによって、更に純一な信心に甦るだけの強大な直観も持っていないようだ。自分達の本堂に在す仏を拝んでは、次の瞬間に冷静な美術批評家ぶって見・・・ 宮本百合子 「宝に食われる」
・・・しかし芸術家らしい直観も感情もほとんど認められない。画面全体の効果から言えば、氏の幼稚な趣味が氏の技巧を全然裏切っていると言っていい。『慈悲光礼讃』という画題は、氏がこの画を描こうとした時の想念を現わすものかどうかは知らないが、もしこの種の・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
・・・いわんやあの麦畑の全体を直観した時の画家の感じは、全然閑却せられているように見える。これは写実の画にとってはその生気を失う最大の原因となるであろう。 川端氏の画は日本画としては確かに一つの新生面である。しかし同じ道においてすでにはるかに・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫