・・・だからもっと卑近な場合にしても、実生活上の問題を相談すると、誰よりも菊池がこっちの身になって、いろ/\考をまとめてくれる。このこっちの身になると云う事が、我々――殊に自分には真似が出来ない。いや、実を云うと、自分の問題でもこっちの身になって・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・「そうですか、それではやむを得ないが、では御相談のほうは今までのお話どおりでよいのですな」「御念には及びません。よいようにお取り計らいくださればそれでもう結構でございます」 矢部はこのうえ口をきくのもいやだという風で挨拶一つする・・・ 有島武郎 「親子」
・・・夜が明けても、的はないのに、夜中一時二時までも、友達の許へ、苦い時の相談の手紙なんか書きながら、わきで寝返りなさるから、阿母さん、蚊が居ますかって聞くんです。 自分の手にゃ五ツ六ツたかっているのに。」 主人は火鉢にかざしながら、・・・ 泉鏡花 「女客」
・・・「あなたのご承知のとおりで、里へ帰ってもだれとて相談相手になる人はなし、母に話したところで、ただ年寄りに心配させるばかりだし、あなたがおいでになったからこのごろ少し家にいますが、つねは一晩でも早くやすむようなことはないのですよ。親類の人・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・親からは近々当地へ来るから、その時よく相談するという返事が来たと、吉弥が話した。僕一個では、また、ある友人の劇場に関係があるのに手紙を出し、こうこういう女があって、こうこうだと、その欠点と長所とを誇張しないつもりで一考を求め、遊びがてら見に・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・というは馬喰町の郡代屋敷へ訴訟に上る地方人の告訴状の代書もすれば相談対手にもなる、走り使いもすれば下駄も洗う、逗留客の屋外囲の用事は何でも引受ける重宝人であった。その頃訴訟のため度々上府した幸手の大百姓があって、或年財布を忘れて帰国したのを・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・自分の技倆に信用を置いて相談に乗ったのだと云う風で、落ち着いてゆっくり発射した。弾丸は女房の立っている側の白樺の幹をかすって力がなくなって地に落ちて、どこか草の間に隠れた。 その次に女房が打ったが、やはり中らなかった。 それから二人・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・きっと神さまが、私たち夫婦に子供のないのを知って、お授けになったのだから、帰っておじいさんと相談をして育てましょう。」と、おばあさんは心の中でいって、赤ん坊を取り上げながら、「おお、かわいそうに、かわいそうに。」といって、家へ抱いて帰り・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・ところが、あの年は馬鹿にまた猟がなくて、これじゃとてもしようがないからというので、船長始め皆が相談の上、一番度胸を据えて露西亜の方へ密猟と出かけたんだ。すると、運の悪い時は悪いもので、コマンドルスキーというとこでバッタリ出合したのが向うの軍・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・帰って秋山さん――例の男は秋山といいました――に相談すると、賛成してくれましたので、私は秋山さんと別れて、車の先引きになりました。 亀やんは毎朝北田辺から手ぶらで出てきて河堀口の米屋に預けてある空の荷車を受けとると、それを引っぱって近く・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
出典:青空文庫