・・・やんごとなき仏にならせわがために死にしこころのそのままにして これは自分の妻をあることで、苦しめ抜いたある真宗信徒の歌である。 夫婦愛というものは少しの蹉跌があったからといって滅びるようなものではつまらない。初めは恋愛か・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・田中寛二の、Man and Apes. 真宗在家勤行集。馬鹿と面罵するより他に仕様のなかった男、エリオットの、文学論集をわざと骨折って読み、伊東静雄の詩集、「わがひとに与ふる哀歌。」を保田与重郎が送ってくれ、わがひととは、私のことだときめて・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・晩年には真宗の教義にかなり心を引かれていたそうである。 学生時代には柔道もやり、またボートの選手で、それが舵手であったということに意義があるように思われる。弓術も好きであって、これは晩年にも養生のための唯一の運動として続けていたようであ・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・それを真宗の方では、ずっと昔から肉を食った、女房を持っている。これはまあ思想上の大革命でしょう。親鸞上人に初めから非常な思想があり、非常な力があり、非常な強い根柢のある思想を持たなければ、あれほどの大改革は出来ない。言葉を換えて言えば親鸞は・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
余は真宗の家に生れ、余の母は真宗の信者であるに拘らず、余自身は真宗の信者でもなければ、また真宗について多く知るものでもない。ただ上人が在世の時自ら愚禿と称しこの二字に重きを置かれたという話から、余の知る所を以て推すと、愚禿・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・○去年の春であったか、非無という年の若い真宗坊さんが来て談しているうちに、話頭はふと宗教の上に落ちて「君に宗教はいらないでしょう」と坊さんが言い出した。そこで「宗教がいるかいらないかそういう事は知らぬけれど、僕は小供のうちから宗教嫌いで・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
出典:青空文庫