・・・「冗談を云わずと真誠に、これから前をどうするんだか談して安心さしておくれなネエ。茶かされるナア腹が立つよ、ひとが心配しているのに。「心配は廃しゃアナ。心配てえものは智慧袋の縮み目の皺だとヨ、何にもなりゃあしねえわ。「だって女の気・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・於いて佐々木道誉等、大小の侯伯を集めて茶の会を開きし事は伝記にも見えたる所なれども、これらは奇物名品をつらね、珍味佳肴を供し、華美相競うていたずらに奢侈の風を誇りしに過ぎざるていたらくなれば、未だ以て真誠の茶道を解するものとは称し難く、降っ・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・勇気、仁恵、礼譲、真誠、忠義、克己、これすべてこの執着の現象である。ただ末世に至って真の精神を忘れ形式に拘泥して卑しむべき武士道を作った。吾人は豪快なる英雄信玄を愛し謙信を好む。白馬の連嶺は謙信の胸に雄荘を養い八つが岳、富士の霊容は信玄の胸・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫