・・・それであるから、姉妹もただならぬほど睦まじいおはまがありながら、別後一度も、相思の意を交換した事はない。 表面すこぶる穏やかに見えるおとよも、その心中には一分間の間も、省作の事に苦労の絶ゆることはない。これほどに底深く力強い思いの念力、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ば温和しい方よと小春が顔に花散る容子を御参なれやと大吉が例の額に睨んで疾から吹っ込ませたる浅草市羽子板ねだらせたを胸三寸の道具に数え、戻り路は角の歌川へ軾を着けさせ俊雄が受けたる酒盃を小春に注がせてお睦まじいとおくびより易い世辞この手とこの・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ この到らぬ隈もない音と音との調和、物と影との離れることのない睦まじい結合を繞って、ゆるやかに脈打つ生命の力を感じるとき。彼女は祈らずにはいられない感動に打たれるのである。 霊感にさほど遠くない感情の火花が、美くしく彼女の胸の中に輝・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫