・・・まりは、石塊の上をころげたり、土の上を走ったりしました。そして、体じゅうに無数の傷ができていました。 どうかして、子供らの手から、のがれたいものだと思いましたけれども、それは、かなわない望みでありました。夜になると、体じゅうが痛んで、ど・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・ 紳士は、めったに人の通らない、青田の中の細道を歩いて、右を見たり、左を見たりしながら、ときどき、立ち止まっては、くつの先で石塊を転がしたりしていました。「どこの人だろう? あんな人はこの村にいないはずだが。」と、信吉は、その人のす・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・崖の中腹には、小使の音吉が弟を連れて来て、道をつくるやら石塊を片附けるやらしていた。音吉は根が百姓で、小使をするかたわら小作を作るほどの男だ。その弟も屈強な若い百姓だ。 兄弟の働いている側で先生方は町の人達にも逢った。人々の話は鉱泉の性・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ いいとしをして、それでも淋しさに、昼ごろ、ふらと外へ出て、さて何のあても無し、路の石塊を一つ蹴ってころころ転がし、また歩いていって、そいつをそっと蹴ってころころ転がし、ふと気がつくと、二、三丁ひとつの石塊を蹴っては追って、追いついては・・・ 太宰治 「鴎」
・・・ 新宿の歩道の上で、こぶしほどの石塊がのろのろ這って歩いているのを見たのだ。石が這って歩いているな。ただそう思うていた。しかし、その石塊は彼のまえを歩いている薄汚い子供が、糸で結んで引摺っているのだということが直ぐに判った。 子供に・・・ 太宰治 「葉」
・・・一つ一つの石塊を切り出し、運搬し、そうしてかつぎ上げるのは容易でない。しかし噴火口から流れ出した熔岩は、重力という「鬼」の力で押されて山腹を下り、その余力のほんのわずかな剰余で冷却固結した岩塊を揉み砕き、つかみ潰して訳もなくこんなに積み上げ・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・途上の人は大きな小説中の人物になって路傍の石塊にも意味が出来る。君は文学者になったらいいだろうと自分は言った事もあるが、黒田は医科をやっていた。 あの頃よく話の種になったイタリア人がある。名をジュセッポ・ルッサナとかいって、黒田の宿の裏・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
・・・ 青森湾沿岸の家の屋根の様式は日本海海岸式で、コケラ葺の上に石塊を並べてあるのが多い。汽車から見た青森市の家はほとんど皆トタン葺またはコケラ葺の板壁である。いかにも軽そうで強風に吹飛ばされそうな感じがする。永久性と落着きのないのは、この・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・ジャーナリズムの指はミダスの指のように触れる限りのものを金に化することもあり、反対に金もダイアモンドもことごとく石塊とすることもある。キルケのごとくすべての人間を動物に化することもあるが、また反対にとんでもない食わせものの与太者を大人物に変・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・というのでも、火口から噴出された石塊が屋をうがって人を殺したということを暗示する。「すなわち高天原皆暗く、葦原中国ことごとに闇し」というのも、噴煙降灰による天地晦冥の状を思わせる。「ここに万の神の声は、狭蠅なす皆涌き」は火山鳴動の物すごい心・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
出典:青空文庫