・・・が、主人はそれを顧みもせずやっぱり毀れた猪口の砕片をじっと見ている。 細君は笑いながら、「あなたにもお似合いなさらない、マアどうしたのです。そんなものは仕方がありませんから捨てておしまいなすって、サアーツ新規に召し上れな。」とい・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・鉄で作った金平糖のようなえらの八方へ出た星を、いくらか歪みなりにできた長味のある輪から抜き取るのや、象牙でこしらえた小さい角棒の組合せから、糸で繋いだ、それよりも小さい砕片を潜らせるのや、いろんなのがあった。おひろはそんな物が好きであった。・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・と女は両手を高く天に挙げて、朽ちたる木の野分を受けたる如く、五色の糸と氷を欺く砕片の乱るる中にどうと仆れる。 三 袖 可憐なるエレーンは人知らぬ菫の如くアストラットの古城を照らして、ひそかに墜ちし春の夜の星の、紫深き・・・ 夏目漱石 「薤露行」
出典:青空文庫