・・・ が、人々は却って皮肉に、「お前んとこにゃ、なんぼかこれが(と拇指と示指とで円あるやら分らんのに、何で、一人息子を奉公やかいに出したりすらあ! 学校へやったんじゃが、うまいこと嘘をつかあ、……まあ、お前んとこの子供はえらいせに、旦那・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ お里は、よく物を見てから借りて来たのであろう反物を、再び彼の枕頭に拡げて縞柄を見たり、示指と拇指で布地をたしかめたりした。彼女は、彼の助言を得てから、何れにかはっきり買うものをきめようと思っているらしかった。しかし、清吉にはどういう物・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・と今一人の船頭が言って、左の臂をつと伸べて、一度拳を開いて見せ、ついで示指を竪てて見せた。この男は佐渡の二郎で六貫文につけたのである。「横着者奴」と宮崎が叫んで立ちかかれば、「出し抜こうとしたのはおぬしじゃ」と佐渡が身構えをする。二艘の・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫