・・・ 貴所からも無論老先生及細川に向て祝詞を送らるることと信ずる。 六 婚礼も目出度く済んだ。田舎は秋晴拭うが如く、校長細川繁の庭では姉様冠の花嫁中腰になって張物をしている。 さて富岡先生は十一月の末終にこ・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・朝々の定まれる業なるべし、神主禰宜ら十人ばかり皆厳かに装束引きつくろいて祝詞をささぐ。宮柱太しく立てる神殿いと広く潔らなるに、此方より彼方へ二行に点しつらねたる御燈明の奥深く見えたる、祝詞の声のほがらかに澄みて聞えたる、胆にこたえ身に浸みて・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・新年になると着なれぬ硬直な羽織はかまを着せられて親類縁者を歴訪させられ、そして彼には全く意味の分らない祝詞の文句をくり返し暗誦させられた事も一つの原因であるらしい。そして飲みたくない酒を嘗めさせられ、食いたくない雑煮や数の子を無理強いに食わ・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・自分は飽食し、安穏に良人と召使とにかしずかれ、眉をかいた細君が、一種の自己陶酔の中で高々とうたい上げる祝詞のような皇軍の歌のかげに、生きて、食っているもののいいようのない脂のこさ、残酷さを感じる心は、決して銃後の女のまじめさと心やさしさに反・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・知性の喪失を、梶が謳歌していることに対して、もし、苦しんでいる知識人からの祝詞や花束がおくられると予想すれば、それは贈りての目当てにおいて大いにあやまったものと云わざるを得ない。従来馴致された作家横光の読者といえども、知性を抹殺する知性の遊・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫