・・・そう云う旨い為事があるのかい。福の神の髻を攫んで放さないと云う為事だ。どうかすると、おめえそんなのを一週間に一度ずつこっそりやるのかも知れねえが。」一本腕はこう云って、顔をくしゃくしゃにして笑った。 爺いさんは真面目に相手の顔を見返して・・・ 著:ブウテフレデリック 訳:森鴎外 「橋の下」
・・・自分が福の神であったら今宵この婆さんの内に往て、そっとその枕もとへ小判の山を積んで置いてやるよ、あしたの朝起きて婆さんがどんなに驚くであろう。しかし善く考えると福相という相ではない。むしろ貧相の方であって、六十年来持ち来ったつぎまぜの財布を・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
出典:青空文庫