・・・秋になって病気もやや薄らぐ、今日は心持が善いという日、ふと机の上に活けてある秋海棠を見て居ると、何となく絵心が浮んで来たので、急に絵の具を出させて判紙展べて、いきなり秋海棠を写生した。葉の色などには最も窮したが、始めて絵の具を使ったのが嬉し・・・ 正岡子規 「画」
・・・正面には女郎花が一番高く咲いて、鶏頭はそれよりも少し低く五、六本散らばって居る。秋海棠はなお衰えずにその梢を見せて居る。余は病気になって以来今朝ほど安らかな頭を持て静かにこの庭を眺めた事はない。嗽いをする。虚子と話をする。南向うの家には尋常・・・ 正岡子規 「九月十四日の朝」
・・・何の手入もしないに、年々宿根が残っていて、秋海棠が敷居と平らに育った。その直ぐ向うは木槿の生垣で、垣の内側には疎らに高い棕櫚が立っていた。 花房が大学にいる頃も、官立病院に勤めるようになってからも、休日に帰って来ると、先ずこの三畳で煎茶・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
出典:青空文庫