・・・若い世代でいい科白の書けるのは、最近なくなった森本薫氏ぐらいのもので、菊田一夫氏の書いている科白などは、森本薫氏のそれにくらべると、はるかにエスプリがなく、背後に作者のインテリゼンスが感じられず、たとえば通俗小説ばかり書いている人の文章が純・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・という一種の技巧論を信じているから、例えば映画でも、息も絶え絶えの状態にしては余りに声も大きく、言葉も明瞭に、断末魔の科白をいやという程喋ったあげく、大写しの中で死んで行く主演俳優の死の姿よりも、大部屋連中が扮した、まるで大根でも斬るように・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・「なるほど、家を飛び出すだけあって、あんたも随分おつな科白が飛び出すわね。しかしわれらのペペ吉が惚れるもあろうに、ストリート・ガールにうつつを抜かした――というのはあんまりみっとも良い話じゃないわよ」 ペペ吉とは豹吉の愛称だ。むかし・・・ 織田作之助 「夜光虫」
・・・次に、永年科白で苦労していい加減科白に嫌気がさしていたので、小説では会話をすくなくした。なお、文楽で科白が地の文に融け合う美しさに陶然としていたので会話をなるべく地の文の中に入れて、全体のスタイルを語り物の形式に近づけた。更に言えば、戯曲の・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・ないことがあろうかと云う名に動かされた行為とはせず、彼時代の圏境の裡に武将として育った一人の人間が、一旦思い込んだら、是が非でも其を通さずには止まない性格的悲劇を捕えようとしたらしい節々が、傅役虎昌の科白のうちにも仄めかされているのである。・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・でコルベールがいう一寸した科白を、ある日本の作家が女性の洗練された話術の感覚の見本としてほめていたが、果してそれをすぐコルベールの身についたものということが出来るだろうか。有名だった「夢見る唇」の中でベルクナアが妻を演じて、苦しいその心のあ・・・ 宮本百合子 「映画女優の知性」
・・・立つとき、金を貰いに来た男が、拒まれて、何かすて科白を云う。 二十二日 メキシコ アリゾナ 二十三日 L. A. 着、あの心持 San Gabriel を見物 二十四日 ドクターヒアスに呼ばれる。 二十五日 CC夫人・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・男は芝居の科白を云って居るとは思わなかった。「何云ってるんだろう……気味の悪い人だ、そんなにおどかさずにおくれ」「おどかしてあげる、――どこまでもあんたが弱ってへとへとになって死んでしまうまで」「そんな美くしいかおをしてそんなこ・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・ 宗之助の小町に、些も小野小町らしい大らかさも、才気もなく、始めから終りまで、妙にせっぱ詰った一筋声で我身を呪ったり、深草少将を憤ったりしたのは、頭が無さすぎた。 科白も始めの部分と終りの方とでは言葉使いが違っている。勿論台本がああ・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・なかに新聞記者が記事作成の上に加えられる不便をかこった科白がある。日独協定のことについて、書かれるべき感想は更に多くあるのであろうが、お定の記事が、一等国の大新聞社会欄をあれほどの場面で占め得るということは、その一面に何を暗示しているのであ・・・ 宮本百合子 「暮の街」
出典:青空文庫