・・・へ移住させるというのだ。 会社の事務員は「満州国」へ行きさえすれば仕事は山ほどあり、物価はやすいし仕合わせずくめの話をする。ブル新聞では「新天地満州国」とか、日本の「大衆の幸福の鍵満州国」という風な太鼓をたたいているから、失業させられ、・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・十八世紀の末に、清教徒が精神の自由を求めて新世界へ移住してきた封建的伝統を少くもった新興国である。移民した人々に対する英国の徴税とその君主支配に反対して独立戦争をおこして、勝利した。人類の理想、人道主義世界の擁護、平和の精神はアメリカ伝統の・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・その夏ヴォルガ河口に在るアストラハン市で凱旋門を建てる仕事があって、マクシムは妻子をつれ移住した。四年ぶりでニージニへ戻る船中で彼はコレラで倒れたのであった。 父親が死んでから、小さいアリョーシャは母親のワルワーラと一緒に祖父の家で・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ さまざまの政治的変動の余波を蒙って、多くの波瀾を経ながら辛うじて疏水事業が進行しはじめたとき、米沢藩だの久留米藩だのから下級武士たちがそれぞれ一家をひきつれて開墾へ移住して来た。そしてそれぞれにもとの藩の名をつけて久留米開墾という風に・・・ 宮本百合子 「村の三代」
・・・そのつぎの年に、仲平は一旦帰国して、まもなく江戸へ移住することになった。今度はいずれ江戸に居所がきまったら、お佐代さんをも呼び迎えるという約束をした。藩の役をやめて、塾を開いて人に教える決心をしていたのである。 このころ仲平の学殖はよう・・・ 森鴎外 「安井夫人」
・・・「行ってしまったのです。移住したのです。行方不明です。」「それはよほど前の事かね。」「さよう。もう三十年程になります。」 エルリングは昂然として戸口を出て行くので、己も附いて出た。戸の外で己は握手して覚えず丁寧に礼をした。 ・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫