・・・「縛り首は穏便でございますまい。武士らしく切腹でも申しつけまするならば、格別でございますが。」 修理はこれを聞くと、嘲笑うような眼で、宇左衛門を見た。そうして、二三度強く頭を振った。「いや人でなし奴に、切腹を申しつける廉はない。・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ が、この不しだらな夫人のために泥を塗られても少しも平時の沈着を喪わないで穏便に済まし、恩を仇で報ゆるに等しいYの不埒をさえも寛容して、諄々と訓誡した上に帰国の旅費まで恵み、あまつさえ自分に罪を犯した不義者を心から悔悛めさせるための修養・・・ 内田魯庵 「三十年前の島田沼南」
・・・只見掛けたと云うだけのこの二人を取り押さえても、別に役に立ちそうではなく、又荒立てて亀蔵に江戸を逃げられてはならぬと思って、須磨右衛門は穏便に二人を立ち去らせた。 大阪で九郎右衛門が受け取ったのは、桜井から亀蔵の江戸にいることを知らせて・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫