・・・ 不思議なことには、このドイツ語で紹介された老子はもはや薄汚い唐人服を着たにがにがとこわい顔をした貧血老人ではなくて、さっぱりとした明るい色の背広に暖かそうなオーバーを着た童顔でブロンドのドイツ人である。どこかケーベルさんに似ている、と・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ オーストリア人で、日本へ遊びに行った帰りだという童顔白髪の男と話す。富士屋ホテルの案内記のような小冊子をカバンから出して見せたりした。隣席のドイツ人も話しかけて、これから通過する鉄路のループの説明をしてくれたりした。山の腹の中でトンネ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ まっ黒なピアノに対して童顔金髪の色彩の感じも非常に上品であったが、しかしそれよりもこの人の内側から放射する何物かがひどく私を動かした。 平たく言えば私はその時から全くケーベルさんが好きになったのであった。もっともその前からその人が・・・ 寺田寅彦 「二十四年前」
・・・油の磨きで黒黒とした光沢のある革張りのソファや椅子の中で、大尉の栖方は若若しいというより、少年に見える不似合な童顔をにこにこさせ、梶に慰めを与えようとして骨折っているらしかった。食事のときも、集っている将校たちのどの顔も沈鬱な表情だったが、・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫